昨日は本当に疲れました。1日でたった数人の診療で、顕微鏡を駆使した根管治療やインプラントの説明、今後の治療方針の相談など歯を残したり、的確な機能回復に付随して得られる端正さや美しさの獲得といった「知的で生産的」な仕事が続いていた時は気分上々だったのですが、40歳前の美しい女性の「見た目が気になるから前歯の先っちょのギザギザを削って欲しい」という要求に対して余計な事を言ってしまって、いまだに気分がモヤモヤしております。
前歯の先っちょの凸凹は生えたての歯に見られるマメロンと呼ばれる構造です。我々歯科医師や技工士が歯を作る時にこのマメロンの構造を再現するのにはとても苦労します。腕の見せ所といった感じでしょうか。
すり減っていない長い歯で、マメロンが存在していると10代のように若々しく見えます。年齢が上がってくると歯がすり減って短くなり、マメロン構造も無くなります。
この女性の今日の治療は奥歯にセラミックの白い歯を装着する事でした。私は出勤時に出来上がってきているセラミックをもう一度チェックし直したりして「絶対失敗しないように」と緊張していたのです。私は自分の仕事を「絶対失敗しないように」するために、前日に、明日予定されているの全ての診療内容を把握してイメージトレーニングをしております。ですから治療の最初に予定以外の事を急にやれと言われたり、相談されたりすると心が乱れてしまうのです。この緊張感のことはお客様にもスタッフにも解ってもらえないと思います。当事者にしか解らない事ってありますよね。
で、そのセラミックを接着する治療にとりかかろうとしていたまさにその時に「見た目が気になるから、ギザギザを削って欲しい」と言われたので、気が動転してしまい余計な事を口走ってしまいました。
「ヒアルロン酸注入なら、後から効果を減らす注射ができるそうですが、歯は一旦削ったら二度と元に戻せませんよ。『絶対に後から元に戻して欲しいと言いません』とサインでもしてもらわないと恐ろしくて手を付けられないわ。とにかく今日はセラミックの接着の仕事に集中させて下さい。」と言ってしまったのです。
美容に強く興味を持っている人の、このような要求は終わる事がありません。次から次へと「気になる」所が出現するようです。もう十分過ぎる程、若々しく、美しくても、です。彼女は「もういいです。」と随分御立腹の様子でした。私は本当に馬鹿な事を口走ったものです。
私は(もし医師免許を持っていたとしても)誰かの体、とりわけ若い方の体にピアスの穴を開けたり、タトゥーを入れたり、二重まぶたにしたり、ヒアルロン酸を注射したりする事はやらない(恐ろしくてできない)と思います。自分の信条や価値観と余りにも違うからです。神の創った神聖な体を「美容目的だけでいじくり回す」事は自分にはできません。
「若く美しい女性の、若々しく綺麗な歯を『今風な感じにカッコよく』削る事はこのジジイには無理だと思うよ。若い感覚を持った美容歯科の先生にやってもらった方が、きっと気に入るように仕上がるよ。」と言うべきでした。
相手の価値観を否定するのも、自分の価値観を押し付けるのも「不幸の始まり」です。相手のそれを変えようとする気もありませんし、自分のそれを(金儲けの為に)変える気もありません。
私は私の価値観を明確に伝える為だけに、このブログを毎日更新しているのです。