英保歯科的、前歯が欠けた時の治療方法

「先生、大変な事になりました。縫い物をしていて『グッ』と力を入れた時に、前歯が欠けちゃったんです。」
「どれどれ・・・。ホンマや。」

黄色の矢印の部分が欠けてしまっていますね。
斜め横から見たらこんな感じ。

見た目は全然気にならないし、痛くも何ともありません。舌触りも気になりません。でも、ここから虫歯にならないか心配で、詰めておいてもらおうかと思って、来ました。」
「そうですね。レジンで修復すれば一旦は綺麗にはなるよ。0.何ミリかは削って詰めるようになるけどね。」

エナメル質を一層(ほんの少し、0.2㎜か0.3㎜ 程度だけ)削って、接着剤を塗り、薄緑の範囲に「コンポジットレジン」をくっつければ全然目立たないレベルまで綺麗になります。一旦は
違う方の歯の写真ですが、そのように綺麗に修復しても、治療後数年から10年程経てば、詰めたコンポジットレジンや接着剤(高分子化合物)の加水分解が起きてしまい、詰めた部分に変色が発生します。この写真の黄色矢印で囲まれた範囲は何年か前にコンポジットレジンを詰めてもらったそうです。

加水分解はプラスチック製品の表面がだんだん「ベトベト、ニチャニチャ」になってくる、例のやつです。私達の身の回りも最近は中国製の製品ばかりになってきましたが、質の低いプラスチックは加水分解が早く進んでしまいます。例えば、100均の製品などは数か月でベチョベチョになってくる事がありますね。
歯科で使うコンポジットレジンは医療用で非常に高品質です。100均のそれとは比べものにならない程の耐久性がありますが、それでも加水分解は避けられないのです。

緑の所をレジンで修復したとして、10年後には加水分解が起きて変色するので更に大きく削って(青の範囲まで)再度詰めるようになります。

それから更に10年経ったらどうなるでしょう。一旦削って埋めてしまうと生きている限り「詰めなおし」が繰り返され、詰め物の範囲はドンドン大きくなって行きます。考えてみたら恐ろしい「負のサイクル」ですね。

お客様と相談した結果、「自分の歯並びや噛み癖を知って、これ以上破壊しないように気を付ける。見た目は全く気にならないという事なので、今回は詰めたりせずに定期的なフッ素コートだけで経過を見る」事になりました。それなら加水分解による変色とも無縁だからね。

この写真をお見せして、この方が前歯を欠けさせてしまった原因を説明し、そのような癖をやめてもらうようにお願いしました。

英保歯科ではこんな感じで、かけがえのないお客様の歯に簡単に手を下す事はしておりません。きっと、合う人には合う、変わった歯医者だな。