歯にトラブルが出た時だけ来院される、あるご夫婦がおられます。時々は他の歯科医院にも行かれたり、また英保歯科に来られたりしながらもかれこれ20年以上のお付き合いになります。お二人共80歳を超えられました。
約20年前、ご主人様が(まだ60歳前後の頃に)来院されて「豪州に海外旅行するので、残っている歯を全部抜いて総入れ歯にして欲しい」とおっしゃいました。まだまだ残せそうな歯も沢山あったのですが、若かった私は患者様の御希望にお答えしようと、嫌々全ての歯を抜いて、総入れ歯を作りました。
それ以降、休日の日でさえ、時々「いくら強い御希望があったとはいえ、残っている歯を全部抜いて総入れ歯になんかしてしまって良かったのだろうか?海外旅行での会話や食事は楽しめたのだろうか?あの人は今頃認知症にでもなっているんじゃないかな?」と何度も何度も思い出しては苦しめられ続けてきました。
今日、その方の奥様が久しぶりに来院されました。ご主人様の御様子をお伺いしたところ、「主人は総入れ歯にしてから口臭もなくなり、機嫌よくやっています。」との事で、少々救われた気持ちになりました。
でも、今回は奥様自身が「2本ほど奥歯を抜いて入れ歯にして欲しい」とおっしゃいます。拝見したところ、まだ修復して残せそうな歯です。
御主人様の御希望に沿う形で、本来の私の歯科医療哲学と異なった事をやって、ずっと苦しめられてきた事を説明し、「奥様に関しては、もう勘弁して下さい。」とお願いしました。
「主人が希望して、その結果喜んでいるのだからいいじゃないですか。何で私はやってもらえないんですか?」とのお返事。
「私には、できません。」
「じゃあ、先生とはこれで、ですね!」
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20年以上のお付き合いでしたが、英保歯科を去られる事になりました。でも、この結果に関して私には何の後悔もありません。歯医者はコンビニより沢山あるそうですから、ご希望が通る所は簡単に見つかると思いますよ。