「実際の治療例や関連情報」カテゴリーアーカイブ

くさび状欠損は磨き過ぎのせい?

「奥歯がしみる。知覚過敏?えぐれたようになっているから虫歯かな?奥の歯は黒い所もあるからきっと虫歯だ。削って詰めてもらおう。」

青い部分は歯ブラシでゴシゴシやり過ぎてえぐれちゃった。緑の部分は虫歯。だから両方削って詰めるのがベスト!←・・・。ホントかな?

「そうですね。歯ブラシで力任せにゴシゴシやるからこんな風になるんですよ。もっと優しく磨いて下さい。後ろの歯の黒い所は虫歯になっているし、麻酔をして、両方削って詰めるようにしましょう。」

「有難う御座います。これで安心だ。」

歯医者でよくある会話を想像するとこんな感じでしょうか?

青い所は噛む力によって構造の弱い所がパラパラと壊れてきていると考えられています。緑の所は慢性う蝕といって、ほとんど進行しない、まあ、虫歯と言えば虫歯ではあります。

予防歯科を核に据え、歯をかけがえの無いものだと考えている英保歯科ではこんな感じで会話が進みます。

「歯の頭の部分はエナメル質という硬い構造で出来ていて、根っこの部分は骨に植わさってしっかりホールドされているので、噛む力によって折曲げられた構造の弱い場所が壊れてくるんです。氷をバリバリ噛んだりしてませんか?やっぱりそうですか。とにかく歯をいたわって使わないと90年も持ちませんよ。こっちの黒い方は慢性う蝕なので、削る方がかえって歯の寿命を短くする可能性が高いかもしれません。」
「選択肢として、①歯をいたわって使って、予防に通院して頂きながらこのまま様子を見る。②しみる症状が強ければ、知覚過敏の処置をするか、レジンでコーティグする。③良くやられているように麻酔をして削って埋める。の3つがあります。」

「先生のお勧めは?」

「①です。一旦手を着けたら2度と元には戻せませんから、慎重に行く事をお勧めします。」

「私もそれが良いです。来月また予防を受けてもいいですか?」

「どうぞどうぞ。感心ですね。それまでに何かあったら、遠慮なくドクターのアポイントをして下さい。」

「有難う御座います。」

皆さんのお好みはどちらでしょうか?

保険の銀歯の下が、エライ事になってました・・・。

誤解の無いように明言しておきますが、今回言いたい事は「保険の銀歯ならダメで自由診療のセラミックの詰め物なら大丈夫」という事では全くありません。

保険の銀歯が入っています。「痛くも何ともない」との事ですが、よく観察すると・・・。
プロの目から見ると、赤い〇の所が、何となく変です。「痛くも何ともないとの事ですが、銀歯を外してみましょう」という私のご提案をこのお客様が快諾して下さるのは、長いお付き合いで信頼関係が出来ているからです。
ジャーン。中はエライ事になっています。まあ、私には解っていましたけどね。
大体悪い所を削り取りました。ここで、う蝕検知液を使って虫歯菌が感染している所が残っていないか染色してみましょう。
赤い液を洗い流した後の状態。良く見ると虫歯菌の残留している所が赤く染まっています。黄色い〇で囲んだところですが、皆さんにも解りますか?
ZOOを使ってしっかり防湿し、接着歯学会で学んだ加水分解の起きにくい接着材と重合収縮応力が少ないコンポジットレジンを使って修復していきます。

使っている材料だけでなく、先生の腕や知識や性格によっても先々の結果に差が出るかも知れません。休日返上で勉強している歯科医師と、休みに釣りやゴルフばっかりに行ってる歯医者と、全く同じ結果じゃないと思いますよ。

これだけ丁寧に治療をしても、歯科治療はしょせん修理であり、元の無垢の歯の状態に戻せる訳ではないのです。悔しいけどね。

今日のお話で、「予防して無垢の状態の歯を維持する事がいかに大切か」を悟って下さい。

「予防が一番。予防しかない。歯を長く使うには予防が必須!」これが、今日、私がお伝えしたい事なのです。

赤面する乳歯?

「先生、奥歯の色が急に変になってきたんです。仕上げ磨きの時に見つけてびっくりして。虫歯にしちゃったんでしょうか?」と、お母様が心配して8歳のお嬢さんを連れて来て下さいました。感心、感心。

「どれどれ・・・。」

確かに中央に写っている乳歯が赤く変色していますね。
この部分です。
この、変色している乳歯はE。その左側にあるのは6歳臼歯(永久歯)です。

6歳臼歯の生える方向が悪く、斜めに出ようとしてお隣の乳歯(E)の内部を破壊してしまったんです。歯の内部が壊されて無くなってその下のピンク色の歯肉が透けて見えているので、このように赤い歯のように見えるのです。

私の説明を聞いてから、もう一度この写真を見直して頂くと、6番がEに引っかかっている事がわかると思います。

大事な大事な6歳臼歯の生え方に問題があるのですから、もう「矯正歯科医に相談する」の一択ですね。

え?昨日のブログのように指で押したらどうかって?

そりゃ無理でしょう。是非早めに矯正歯科に連れて行ってあげて下さい。結局はそれが一番安上がりで一番良い結果をもたらしますので。

「接着歯科で歯を残す」って、実際はどんな感じ?

6月にこのようなブログを書きました。

保険のブリッジ外して、腰抜かした | 英保歯科 (abodc.jp)

その、外したブリッジを支えていた歯がボロボロだったのですが、接着の技術を使って修復を試みましたのでお見せします。

保険のブリッジを支えていた歯ですが、ボロボロです。左の△の方(7番)だけでも抜かずに残してあげたいのですが・・・。
虫歯菌が感染している所を慎重に削り取って行きます。大分削ったけど、まだまだ汚い・・・。
う蝕検知液で確認。かなり綺麗になりました。これなら接着の技術を駆使すれば残せそうです。

ここまでは前回のブログ(保険のブリッジ外して、腰抜かした | 英保歯科 (abodc.jp))でも説明しております。この歯の治療の続きです。

一旦 i-Mix を付けて歯の内部を完全に殺菌した後、グラスファイバーを併用したレジンコアを接着しました。最初の写真と見比べて、どうですか?素人の方から見ても「綺麗になった」と思いませんか?これにクラウン(かぶせ)をしっかり接着して、年数回のメインテナンス(衛生士の先生の治療)に通院して頂ければ、まあ、少なくとも10年は持つんじゃないかな。

この歯の治療には i-Mix を使用しておりますので、残念ながら保険が効かないので自由診療になります。ZOOを使って完全防湿で治療をしていますから、結構長持ちしてくれると思います。

接着歯科専門医といっても魔法使いではありません。こんな感じでコツコツ、地道な現場の作業で修復しているんですよ。でも、こうやって実際を見てみると、「やっぱり接着歯科って凄い」って思いませんか?

私は接着を駆使した治療が大好きです。皆さんもこんな感じの治療が好きですか?

保険のブリッジ外して、腰抜かした

右下の3番(犬歯)から7番まで、5本分の歯を3本で支えるブリッジを入れてもらっているのですが、中央の歯が痛いとの事でそのブリッジを外してみる事にしました。「外す」と簡単に言いますが、金属をひたすら削り取る、過酷でやりたくない仕事です。作業している私達、歯科医師の肺に金属が入りますからね。

白でマークしてある3本の歯を支えにして、オレンジの部分の義歯が維持されてきました。橋みたいになっているからブリッジと呼びます。
赤でマークしてある歯が痛いとの事。周囲からウミがでているのが分かりますか?
外してみると・・・。内部はエライ事になっています。臭いし・・・。右側に写っている歯(ウミが出ていた歯)は腐っちゃっているから、抜歯やむなしですね。左側に写っている歯はどうでしょう?
削っても、削っても綺麗にならない・・・。
何とか残す事はできそうです。でも、これから隔壁を作って、再根管治療をして、抜歯もして、歯が無い所にはインプラントを埋入して・・・。気が遠くなる作業が続きます。

私が言いたい事は「保険のブリッジは全然ダメで、セラミックのブリッジならずーっと大丈夫」という事では全くありません。誤解の無いようにお願いします。

日本人あるある。小学生の時に虫歯にして詰める。数年したらその歯をまた虫歯にして、20歳代の頃に歯の神経取ってかぶせる。更に10年したら、30歳代にはその歯の根っこが割れて、抜いて前後の歯を大量に削って保険でブリッジを入れる。更に15年ほどして40歳代後半か50歳代には支えに使っていた歯がダメになる。つまり、上の写真のような感じになって、何本も抜歯して、いよいよ入れ歯かインプラント。

日本では昭和の時代から「歯の治療」と称して延々こんな事を繰り返しやっているのですが、歯科医師も厚生労働省も国民も、それが「歯の治療」で、それが当たり前だと思っているのです。全員が、かなりの人生の時間と医療費を使ってね。本当にバカみたいだと思いませんか?

もしも、日本の歯科医師も厚生労働省も国民も、予防歯科が「当たり前」と考えていたなら、このような不毛な状況は全て消滅します。

戦後復興期の昭和は仕方がなかったとしても、バブルに浮かれていた平成の頃には気が付いて変わるべきだったね。
誰もが少しは努力したり、我慢したりする事によって、楽しく、美しく、有意義な人生を手に入れる事ができます。食生活を少々コントロールし、歯の手入れを「普通に」して、予防歯科に年3回通うだけの事なのですが。

このような危険な作業をやらされている時にいつも福島の原発の除染作業の事が頭に浮かんできます。

大都会から経済的な見返りが提示されても、踏ん張って原子力発電所を受け入れていなければ、今の福島の苦悩は起こっていないのです。リーダーか自分自身が賢明に判断して、頑張らないと。

明日は土曜日。衛生士の先生方は「予防歯科」という非常に意味のあるミッションで、私は「世間の後始末」という過酷なミッションで、共に忙しいはずです。

頑張ります。

ゴールドインレー vs レジン充填

今日来られた若い女性のお客様。「しっかり防湿して長持ちする治療をして欲しい。奥は大阪でゴールドのインレーにして貰ったのですが、そこでの防湿に不安があって。白いセメントがしてある方をしっかり防湿してゴールドインレーにして欲しいのです。」とのご要望でした。

「歯科関係の方ですか?」とお伺いしたら「いえいえ。ネットで色々と勉強して。」との事、高度な情報収集が可能な、便利な時代になったものです。

さて、以下は「しっかり防湿して治療を行う」という大前提があっての話です。念のため。

ところで、「長持ちする」とはどのような定義なのでしょう?一旦虫歯にしてしまい、人工物で修復した歯が一生それで行けるなんて事は不可能です。虫歯にしていない無垢の歯は可能性がありますが。

詰め物(人工物)が長持ちする方が良いなら金属が良いかも。レジンは欠けたりしやすいので劣るかな。

でも、これからの長い人生の間に、何回かその歯を再修復をする事になるはずですが、その都度歯を削るようになります。穴がだんだん大きくなって、人工物の部分がだんだん大きくなるのです。だったら、毎回、なるべく小さく削る治療を選択する方が良いかも知れませんね。

歯に対する接着強さも金属よりはレジンの方が強いのです。どちらも簡単に外れたりはしませんけどね。

左の歯は他院で治療途中。白いセメントがしてあります。リークして細菌感染してきているので、一旦セメントを剥がしてしまわないといけませんね。
ゴールドインレーだとこんな風に削ります。金属は欠けたりしないから丈夫、ではある。
レジンだと削る範囲がちょっとだけ小さくなって、接着力も強い。でも詰め物が欠けたりはしやすい。

ずっと予防に通院して下さっている、英保歯科のファミリーのお客様ならお互いの信頼関係が出来ているから、一旦はレジンで修復したいな。

虫歯の時だけお見えになる、一見さんなら金属にしてあげた方が、その方の価値観に合って喜ばれるかも。とりあえずは長持ちするから「ええ歯医者や。」って言ってもらえそう。それもアリだな。

歯科衛生士がステルス虫歯を発見!

20歳の女の子。先週、何年かぶりに定期健診とにお見えになりました。関心感心。
歯科衛生士の新谷先生がメインテナンス(クリーニング)中に「英保先生、ちょっとチェックに来て下さい。どうやら虫歯があるようです。」と私を呼びに来ました。
拝見すると左下の12歳臼歯にグレーっぽく見える箇所があります。
「新谷先生、流石だね、確かに虫歯のようだな。」と、私。「次回私のアポイントでお見えになって下さい。レントゲン検査をして確認し、必要なら治療しますね。」とお話しました。

このちょっとした変色から虫歯を発見できるのが、歯科衛生士のプロたる所以です。訓練を積んでいるからね。凄いでしょ。

後日、麻酔をして少し削ってみると、やはり内部で虫歯が進行していました。

少し削って開けてみたところ。内部は虫歯で変色し(オレンジ矢印)、歯肉に接するエナメル質は溶けて荒れて(黄色矢印)います。

斜めになっている親知らずを放置した時にはこうなる事が多いのですが、今回はそうではありません。珍しいケースだと思います。

彼女がもしも今回定期健診に来ていなかったら、この虫歯が気が付かないうちに進行して、「突然痛みが出てから歯医者に行ったら神経取られて銀歯にされた。」と友達に LINE しなければならない所でした。

やっぱり予防歯科の為に通院するってメリットが大きいですね。

なるべく歯を削らないように

私は歯を削るのが大嫌いな、一風変わった歯医者です。「バリバリ削ってセラミックで白い歯に」という治療はあまり好きではありません。健康な歯の部分まで削る事が嫌なのです。
例えば、こんな感じで治療しています。

20歳の女の子。矯正やホワイトニングまで受けているのに、予防歯科は受けていなかったようです。フロスの知識や習慣が無かったので歯と歯の間を虫歯にしてしまいました。もったいない!
でもすぐには削らずに、矯正治療に使う小さな小さな輪ゴムを歯と歯の間に入れました。大丈夫。痛くないから。
この輪ゴムが閉まる力で歯と歯の間を1ミリ程度広げます。大丈夫。痛くないから。
2日後に輪ゴムを外すと、思惑通り歯と歯の間が開いて、虫歯の部位に直接アクセスできるようになっています。
細心の注意を払って少しずつ削ります。かけがえの無い歯だから、少しずつ、少しずつ。
手前の歯、5番にも虫歯が見つかりました。カリオロジーに配慮しても、今回同時に治療しておいた方が良いと判断しました。
カリエスディテクターを使って、慎重に、少しずつ削ります。
虫歯菌に感染した部分の除去が完了しました。
光重合レジンで修復しました。
翌日には1ミリの隙間は自然に閉鎖していました。

かみ合わせの面からガリガリ大量に削って、場合によっては銀の詰め物になる治療方法と比較して如何ですか?彼女にはこれらの写真を見せて「先生もこれだけ一生懸命やったのだから、貴方もフロスを頑張ってやってね。」とお願いしておきました。もちろん素直に返事をしてくれましたよ。

ブローネマルク・インプラントは、やはり、美しい。

英保歯科では開業以来ずっとノーベルバイオケア社のインプラントを使っている事を先日このブログでお話しました。

故ブローネマルク博士。御自身が執刀する手術が終わった後、自ら患者様にコップを手渡して「良く頑張りましたね。どうぞゆすいで下さい」と労いの言葉をかけられる、そのような人格をお持ちの先生だったそうです(小宮山先生談)。歯科医師たるもの、こうありたいものです。

約20年前、故ブローネマルク博士の開発された素晴らしいインプラント治療の方法を小宮山彌太郎先生から教わってスタートしました。小宮山先生にCTのフィルムや模型を宅急便で送って直接ご指導頂いた事や、ノーベルファルマ社の歯科衛生士、吉積先生が三田の英保歯科までわざわざ来て下さって(堂々と)オペのサポートをして下さった事など、懐かしく思い出されます。

埋入後約20年経過したブローネマルクインプラント。無駄を極限まで削ぎ落した、この直径3.75mmのインプラントは今でもとても美しいと思います。
約20年経過してもビクともしていません。メインテナンスの賜物ですね。

当時はDTXガイドシステムはおろか、コーンビームCTすら無かった時代で、「上顎は医科でCTを撮影してもらった方がいいね」と言っていた位です。今はSmart Fusion, DTX Guide, Ti Ultra, Xeal, On1 等々が使えて、まさに隔世の感がある進歩です。

それらを全て歯科医師の「腕とセンス」でカバーしていたのですから、この写真を見たら「我ながら良く頑張ってきたな。」と思いますし、当時の経験は全て現在の手術に活かされているのです。あの頃があって今がある、ですね。

こちらの患者様も70歳になられましたが、インプラントを入れてからずっと4か月に1回は必ずメインテナンスに来て下さっています。最新のインプラントを使う事よりもっと大切な事、それはメインテナンスなのです。

歯を抜いたまま放置した結果・・・。

昔虫歯で神経を取ってしまった歯の根っこが割れてしまって「抜くしか無いですね」と歯科医師に言われ、歯を泣く泣く失う事があります。抜いた後はブリッジかインプラントか入れ歯の3択になるのですが、「抜いたまま放置」という4番目の選択肢は無いのでしょうか?

恐らく横になっていた下の親知らずをずーっと放置していたせいで、その手前の下顎の7番(オレンジ)が虫歯になって抜歯に至ったのでしょう。
下顎の7番(オレンジ)を抜きっぱなしにして放置した場合、このような事が起こり得ます。上顎の7番(黄色)が噛み合う相手の歯を探して伸びてきます。(緑と赤の線の位置を比較してみて下さい)
伸びて来た7番と下顎の6番(オレンジ)が干渉し合うようになって(赤矢印)、それが気持ち悪いので無意識に顎を変に動かして避けようとし始めます。だんだん肩や顎がこるようになったり、夜間に歯ぎしりをするようになったりという事が起こり得ます。
下顎の噛み合う相手の歯を抜いて放置した結果・・。上の歯がドンドン伸びて来て、エライ事になっちゃいました。(緑と赤の線の位置を比較してみて下さい)

このような事態を避けるためには、この場合現実的には下顎の7番を抜いたらすみやかにインプラントを入れておかなければなりません。

もし常日頃から予防歯科に通院していれば、横になった親知らずも早めに抜いて、インプラントの相談も早めに出来て、良い事ばかりですね。予防するってやっぱり大切ですね。