根面う蝕(こんめんうしょく)は令和の新しい現代病?

根面う蝕(こんめんうしょく)という言葉を耳にされた事はありますか?保険治療でも最近クローズアップされているキーワードです。


昭和の頃は日本人全員が 65歳くらいで歯が1本も無い「総入れ歯の老人」になるのが普通でした。昭和は「人生に於いて歯石を取った事が一度も無い。歯医者は歯が痛くなった時にだけ行くところ。」が常識としてまかり通っていた時代ですからそうなっても当然です。それが昭和の人々(当時の歯科医師も含む)の歯に対する価値観だったのです。


令和の日本はますます超高齢化社会になりつつありますが、同時に近年は予防歯科が一般にかなり浸透してきていますので、高齢の方でも自分の歯がたくさんある人が増えています。それはそれで良い事なのですが・・・。

84歳の男性の下の前歯。中央に大きな虫歯があるのが解りますか?
こちらの方はバリバリのビジネスパーソンだった54歳の頃から、30年間ずっと英保歯科で年に3回の予防歯科治療を受けてこられています。
いかにキッチリ予防歯科的に管理していても、高齢になればだれでも唾液量が激減してしまって虫歯のリスクが高まってしまいます。また、同様に、高齢になれば歯肉が下がって歯の根の部分が露出してきます。この歯の根っこの表面(=根面)はフッ素で強化することができにくいので「根面う蝕」という歯科医師や歯科衛生士泣かせの虫歯が多発するようになってしまうのです。

Eはエナメル質。Rは歯根です。Eは 30 年間のフッ素コートでしっかり強化されているので虫歯になっていません。
Rの部分は本来は歯肉の中に隠れているのですが、高齢になると歯肉が下がってこの写真のように根面が露出してしまいます。若いうちはカルシウムや抗菌成分に富んだ唾液がこの根面をジャバジャバ洗ってくれるので虫歯にならずに済むのですが、唾液量が減るとあっという間にこのように虫歯になります。

更に困ったことに、この手の「根面う蝕」は並行して何本もの歯に同時に進行してしまうのです。(上の写真をご覧ください。)そしてR(=歯根)の部分がどんどん溶けて無くなってしまうと、E(=エナメル質)とRの境の部分から歯がポキッと折れたように思える現象が起こります。
そんな時には「何本もの歯が突然折れてしまいました。」という表現をされて来院されます。

この根面う蝕は
①予防歯科の普及で歯のある中高年が増えた
②その人達が高齢になってきて、唾液量が減ったり、ブラッシングのスキルが低下したり、認知能力が低下したりした
といった事に起因する「令和の新しい現代病」と言えるかも知れません。

令和の時代の歯科医療に従事する歯科医師も歯科衛生士も、まさに手探り状態でこの忌々しい根面う蝕への対応策を模索中なのです。

誰ですか?「そんな事なら早めに歯を抜いてしまって総入れ歯にした方がマシかもね。」なんて言っている人は。

最近、健康で活発な高齢者が増えている理由の一つは「高齢でも自分の歯がたくさんそろっているから」なのは疑いの余地がありません。