尾添獣医師は哲学を持つ

9年前に我が家にやってきたウサギのグレコ。9年前は少女だった彼女も今ではもう御婆さんです。そして、妻や子供達の心の友として無くてはならない存在です。

ところが最近あまり元気がありません。娘が「1カ月もお腹が緩くなっている。一日も早く尾添先生に診てもらって!」と言うので、今日、友人の獣医師の病院、甲東動物病院に連れて行ってやりました。

「たかが下痢くらい、ペレットの食べ過ぎか何かだろ?」と軽く考えていたのですが、レントゲン検査の結果、大量の腹水と胸水が貯まっており重篤な状態である事がわかりました。

風船のように真っ白に写っているのが腹水と胸水です。さぞかし苦しいだろうと思います。

「原因は何でしょう?どうすれば治るでしょう?」と質問する私に、尾添先生は温厚な態度で慎重に言葉を選びながら、「例えば、腫瘍のようなものが原因であるとしても、彼女がそろそろ寿命が近付いてきた動物であるという事実を受け入れて、楽にお迎えがくるように考えてあげましょう。」とおっしゃいました。

そして、ご指導に従い、薬を服用させて腫脹を減らし、苦痛を和らげる「緩和ケア」を行う事になりました。

「来年の夏位までは元気でいますかね?」と聞く私に「年を越せたら、と思っています。」との返事でした。子供達に伝えるべきかどうか・・・。
頂いたお薬がたった5日分だった理由は怖くて聞く事ができませんでした。

妻が運転する帰りの車の後部座席で、ずっと頭を撫でてやっていました。「こんな事だったら今までにもっといっぱい撫でてやっておいたら良かったな。」と後悔しています。
今日から予備のゲージをリビングに移動して、家族の傍で過ごせる時間を増やしてやることにしました。

ペットは家族の一員です。病気になった時には「治療や手術を受けてでも何とか元気にしてやりたい。」と、とっさに思うのは自然な姿だと思います。実際に今日の私がそうでした。

尾添先生は「ペットは確かに家族の一員ではあるが、寿命も短く、体も小さい、動物である。」「ペットの終末期医療に対して、人間と同じように考えてはいけない。」という事を暗に教えて下さったのだと思います。

獣医師という仕事・・・。

獣医学的な知識と技術で動物を救うだけでなく、飼い主の考え方を正しい方向に導き、そして、時には、別れの時の心の準備をさせる。

非常に奥の深い哲学的な仕事だと感じました。