匠の技の伝承

少し前に日本海にある原子力発電所で温度センサーの棒が折れるという事故が起きて、幸い放射能漏れはしなかったが大きな社会問題になった事を覚えていますか?
物凄いスピードで流れる液体の中に突き出す形で、垂直に立てて設置した長い金属棒が、流体の圧力によって振動を続け、金属疲労を起こして折れてしまったという事件です。
一流大学を出た、一流企業の、一流の原子力発電所プラント設計の担当者が、完璧に設計して部品を発注し、部品のサイズに全くの遊びを与えずにガチガチに作った事が問題(失敗)だったそうです。
最初はそれがわからずに、部品を作った工場が「発注と違う不良品を作ったのでは?」と責め立てられたのですが、そこの職人さんが「言われた通りにキッチリと作りました。担当者はどんな使い方をするかなんて一切説明せず、とにかく設計図通りに正確に作れの一点張りでした。そんな使い方をする事が分かっていたら、初めから接合部のサイズの手加減をして遊びを与えて、振動が起こっても折れないように作ったのに。現場の職人としては、そんな事は当たり前で常識なんですよ。」と言ったそうです。

Made in Japan は、(現在の所も何とか)信頼の証だそうです。日本のモノの品質が高いのは、終身雇用で一つの企業に長年勤めて、教える先輩も、習う後輩も辛抱強くノウハウを習得するので、その「匠の技」が伝承されるからだと言われています。

韓国の現代自動車のエンジンが発火を起こして大問題になっていますが、中身は三菱のGDIエンジンのコピーだそうです。日本からたくさんの設計者が短期間の高給につられて韓国に渡り、GDIエンジンのコピーが終わったらクビになったそうですが、日本の三菱のエンジンは発火しないのに韓国の現代のエンジンが火を噴く理由は「現場の技の違い」にあるのではないかと想像します。「ローマは一日にして成らず」ですね。

歯医者に関しても似たような事が言えるのです。医学と言う科学であるはずなのに不思議でしょ?
実は「匠の技の伝承」が綿々と成される事も手伝って、日本人歯科医師の器用さが生かされている部分もあるのです。「You Tubeを見てその通りにすれば、何でも今日からできるようになる」という訳ではないんです。できるようになる事も多いけどね。インターネットは有難いね。

ピアノやバイオリン、絵画などの芸術や野球、サッカーなどのスポーツなども似ているのではないでしょうか?

私の家系は歯医者ばっかりです。父、私の3人の兄弟全員、従兄、甥、妻、妻の父、妻の弟、など、挙げたらきりがありません。お互いに本には書いていない、あるいは動画にアップされていない「匠の技の勘所」の交換をしてきました。
こういった事って「何十年もかかって習得したコツで、言ったら一言で終わりなんだけど、言われないと何十年も、下手したら一生、気が付かない」事が多いんです。面白いでしょ。

何十年も現場で歯医者としての経験を積んでいくと、「(亡くなった)父親が言っていた事が今頃になってわかるなあ。」と思う事がよくあります。

我が子にも伝えられたらいいな。