「実際の治療例や関連情報」カテゴリーアーカイブ

意図的抜歯・再植術(閲覧注意)

歯医者のブログだから、今日も歯の話。決して話題に困っている訳ではありません・・・。
えっと、今日は「残せそうにない歯を一旦抜歯して、位置を変えて再植した」という手術の写真をお見せします。見たくない人は見ないでね。明日は岡山大学に講義に行ってきますので、普段のようなブログに戻る予定です。

もう25年以上もずーっと真面目に、英保歯科に予防の為に通院して下っているご婦人。予防歯科のお陰で未だに一本も歯を失っておられません。「英保先生と出会えて自分の歯を全部保つ事ができています。」と言って下さいます。私達の想いが伝わっていて、嬉しいな。

その彼女も今では75歳を超えていらっしゃいます。今日、「銀歯が折れた」との事で(ドクターのアポイントで)来院して下さいました。

そのご婦人の歯。他の歯科医院で過去にやってもらった、左に写っている銀歯と同じような保険の銀歯がかぶせてあった歯が「ポキッ」と折れたそうです。神経が取ってある歯だから弱くなっていたのでしょう。何とかしてあげたいと思って頑張ってみたのですが、歯肉の中の方で折れているから(黄色矢印)どうしても残せそうにありません。

「抜かせて頂いて宜しいですか?抜いた後はインプラントになるかも知れません。お金がかかる治療になる可能性がありますが・・・。」とお伺いすると「ハイ。英保先生がおっしゃるのでしたら諦めがつきます。その後の治療もお金がかかっても、先生の言われる通りにしたいと思います。」とのお返事を頂きました。信じて貰えて嬉しいな。

神経を取ってある上に高齢なので歯根と骨が癒着しているのですが、なるべく歯を壊してしまわないようにオステオトームという器具を使って慎重に抜歯しました。上手い具合に歯を傷つける事無く抜歯できたので・・・。虫歯になっていた場所を歯肉の上に位置させて再植してみる事を(術中に)ご提案しました。

「英保先生にお任せします。」とのご返事。信じて貰えて嬉しいな。

抜いた穴の底にベータTCPという人工骨を填入しました。
これがベータTCPという人工骨。時が経てば吸収されてご自身の骨に変わります。
そのベータTCPの上に抜いた歯を植え直して縫合しました。虫歯の部分が歯肉より上に位置しています(青矢印)。

この後、この歯が骨に癒着するのを待ってみたいと思っています。癒着した歯根は徐々に吸収されてしまうのですが、運よく10年持てば85歳です。これが成功すればインプラントを避ける事ができると同時に歯を一本も失わずに済みますね。

このようなチャレンジングな治療は「歯科医師とお客様の信頼関係」が完全に出来上がっている時のみご提案が可能だと考えます。

歯科医院とお客様の信頼関係も夫婦の信頼関係と同様に、何年も何年もかけて築き上げるものなのです。彼女と私はその信頼関係が出来ているのです。

セラミックのかぶせを外して再治療した。これも予防歯科なんだけど、解る?

歯医者のブログなので、当然のように今日も歯の話です。(え、最近は車の話ばっかりだったって?そうだったかなァ?)

ずーっと英保歯科に予防に来て下さっているお客様の歯です。昔他院でやってもらったセラミックの歯の歯肉側が茶色になっています。「今ちゃんと修復し直さないと、ポキッと折れてきたりした時には抜歯してインプラントですよ。」と説明したところ、自由診療でやり直しされる事を選択されました。信じてもらえて嬉しいな。
根っこの先に病巣があります・・・。
セラミックの被せを外してみたら・・・。まあ、わかってたけどね。
銀合金のメタルコア(金属製の土台)を取り除いたところ・・・。まあ、わかってたけどね。
・・・。頑張って掃除しよう・・・。
根管充填剤というものを全て取り除きました。(青い所に入っていた)。これが大変な仕事なんです。
根っこの先っちょの近くにある側枝という所(黄矢印)にバイオセラミックスを填入する事に成功!これで病巣は縮小するはずです。
今回は土台にファイバーコアを使いました。黒い所は銀合金によるタトゥーで虫歯の取り残しではありませんからご心配なく。
丁寧に削って、技工士の先生にジルコニアセラミック冠を作ってもらいます。
ジルコニアセラミック冠を仮止めして使ってもらいます。具合が良かったらレジンセメントで接着します。

自由診療で20万円ほどかかりますが、これでこの歯の寿命を「グン」と延ばす事ができました。充分に価値のあるお金の使い方だと、私は思います。読者の皆さんの価値観からご覧になったら、どう思われますか?

できれば10年、20年と持って欲しいのですが、既に神経を取ってしまってありますからね・・・。祈る思いです。

私が言いたい事は「歯科医師がこれだけ頑張って、お客様は何回も何回も通院して、高額の治療費を払っても、元々の無垢の歯には戻せない」という事なのです。予防が一番シンプルで簡単でほぼタダである事をしっかり理解して実践して頂きたいと願います。

英保歯科的、前歯が欠けた時の治療方法

「先生、大変な事になりました。縫い物をしていて『グッ』と力を入れた時に、前歯が欠けちゃったんです。」
「どれどれ・・・。ホンマや。」

黄色の矢印の部分が欠けてしまっていますね。
斜め横から見たらこんな感じ。

見た目は全然気にならないし、痛くも何ともありません。舌触りも気になりません。でも、ここから虫歯にならないか心配で、詰めておいてもらおうかと思って、来ました。」
「そうですね。レジンで修復すれば一旦は綺麗にはなるよ。0.何ミリかは削って詰めるようになるけどね。」

エナメル質を一層(ほんの少し、0.2㎜か0.3㎜ 程度だけ)削って、接着剤を塗り、薄緑の範囲に「コンポジットレジン」をくっつければ全然目立たないレベルまで綺麗になります。一旦は
違う方の歯の写真ですが、そのように綺麗に修復しても、治療後数年から10年程経てば、詰めたコンポジットレジンや接着剤(高分子化合物)の加水分解が起きてしまい、詰めた部分に変色が発生します。この写真の黄色矢印で囲まれた範囲は何年か前にコンポジットレジンを詰めてもらったそうです。

加水分解はプラスチック製品の表面がだんだん「ベトベト、ニチャニチャ」になってくる、例のやつです。私達の身の回りも最近は中国製の製品ばかりになってきましたが、質の低いプラスチックは加水分解が早く進んでしまいます。例えば、100均の製品などは数か月でベチョベチョになってくる事がありますね。
歯科で使うコンポジットレジンは医療用で非常に高品質です。100均のそれとは比べものにならない程の耐久性がありますが、それでも加水分解は避けられないのです。

緑の所をレジンで修復したとして、10年後には加水分解が起きて変色するので更に大きく削って(青の範囲まで)再度詰めるようになります。

それから更に10年経ったらどうなるでしょう。一旦削って埋めてしまうと生きている限り「詰めなおし」が繰り返され、詰め物の範囲はドンドン大きくなって行きます。考えてみたら恐ろしい「負のサイクル」ですね。

お客様と相談した結果、「自分の歯並びや噛み癖を知って、これ以上破壊しないように気を付ける。見た目は全く気にならないという事なので、今回は詰めたりせずに定期的なフッ素コートだけで経過を見る」事になりました。それなら加水分解による変色とも無縁だからね。

この写真をお見せして、この方が前歯を欠けさせてしまった原因を説明し、そのような癖をやめてもらうようにお願いしました。

英保歯科ではこんな感じで、かけがえのないお客様の歯に簡単に手を下す事はしておりません。きっと、合う人には合う、変わった歯医者だな。

ゴールドとジルコニアの長所・短所

10年程前はインプラントの上部構造にゴールドを使っていましたが、最近はジルコニアを使う事がほとんどです。

左の大きな歯2本はインプラントです。10年以上前はこのような金歯にしていました。装着して1年後の写真です。
それから10年経過した後の写真です。変化が解りますか?正解は後半で。
現在のレントゲン像。10年以上経過した今でも、骨の状態も良好です。
こちらの方の一番右がインプラント(上部構造はジルコニア製)。最近は(7番以外は)ジルコニアを使う事がほとんどです。金よりこっちの方が綺麗だから好きでしょ?
ジルコニアは生体親和性が非常に高いので、歯肉に全く炎症が見られません(青色の矢印のところ)。硬度も高く壊れにくいのも長所で、(良くも悪くも)自然にすり減る事はほとんどありません(黄色のところ)。

お正月のお料理に金箔が使われるように、金は食べても大丈夫なほどに生体親和性が高い材料ではあります。でもジルコニアには敵いません。但し、金は硬度がエナメル質に近いので、咬み合わせの変化に追従して、自然にすり減ってくれるのです。これが金の持つ圧倒的なアドバンテージで、現在でも(一番力がかかる)一番奥の歯、7番には金を選択する事がしばしばです。

ほんの少しですが歯肉に炎症反応が起きています(黄色の矢印のところ)。
ゴールドに特徴的な事は、長い年月の間に咬み合わせの面が顎の動きに呼応して自然にすり減っている事です(白い〇で囲まれた範囲)。

コールドとジルコニアの長所・短所が御理解頂けましたでしょうか?

ガイドを使ったインプラント治療

先日、英保歯科では3Dシュミレーションを多用するようになっていますとお話しましたが、インプラント治療においてはルーチンに使うようになっています。

CTと歯型をソフト上でマッチングさせて、その画面を使って治療計画を立案します。左は手術中に使う、3Dプリンタで作るワンオフのマウスピースを、右は理想的なインプラントの位置と歯の位置を示します。
one abutment one time concept で手術しました。
その上に取り付けた、ジルコニア製の歯。美しいでしょ?
そのレントゲン写真。一番上映像の右側の像と比べてみて下さい。そっくりだと思いませんか?ガイドを使って埋入したので、狙った3次元的位置に完全に埋入する事ができています。

ゼロボーンロスコンセプトの視点から見ても、このインプラントの周辺の骨は安定して経過すると思われます。

保険の銀歯を外しても、もう驚かなかった

いつもお伝えしていますが、今回のトピックでも「保険の銀歯は全然ダメで、自由診療のセラミックなら大丈夫」と言ってる訳では決してありません。誤解の無いようにお願いします。

「痛くも何ともないので。」との事でしたが、写真を撮って隙間がある事を説明したら、銀歯を外してみる事を希望されました。
ハイ。いつもの感じですね。
う蝕検知液で染色して虫歯の取り残しが無いか、客観的に評価します。この後、水で洗い流すと・・・。
ご覧の通り。赤っぽく染まっている所はまだ虫歯菌が感染しているので、削って取らなくてはなりません。
ちょっと細工をして・・・。
コンポジットレジンでジルコニアセラミックオンレーにする下地(ベース)を作ります。

毎日毎日、このような事ばかりやっています。日本国と日本人の歯科事情、いつか何とかなる日が来るのでしょうか?

矮小歯にジルコニア・べニア

歯のサイズが標準より有意に小さい歯を矮小歯と呼びます。
前歯の矮小歯はどうしても目立ちますので、見た目の印象に影響を与えてしまいます。

大学生になった女の子。2番目の歯が矮小歯です。ちょっと格好が悪いので、何とかして欲しいとのご希望でした。

昔は大きく削ってセラミックの被せをしていたのですが、近年は歯をほとんど削らずに、ラミネートべニアと呼ばれる「セラミックで出来た付け爪」のようなものを手作りして接着する事が可能になっています。

ジルコニアは人口宝石の材料にも使われる程の美しさを持ちますが、最近はそのジルコニアの性質の向上が目覚ましく、CAD・CAMシステムを利用したジルコニア・べニアを使って治療する事もあります。

英保歯科で5年前に接着したジルコニア・べニアの経過をご紹介します。

全く歯を削らすに(←ここ大事!)ジルコニア・べニアを接着してアッというまに5年が経過しました。

流石、インプラントに使える程の生体親和性を持つジルコニアです。歯肉の炎症も皆無で、まるで自分の歯のようです。
もちろんこのべニアの制作に携わって下さったデジタル専門の技工所、DDO(Dental Digital Operation)の技術が素晴らしい事は言うまでもありません。

黒い虫歯‐慢性う蝕とは?

慢性う蝕という考え方があります。虫歯は虫歯なのですが、茶色ではなく黒くなっていて、ゆっくり、あるいはほとんど進行しない虫歯の事を言います。

予防歯科の考え方が無かった昭和の時代は小学生のほぼ全員が虫歯にしていました。前歯の乳歯などはサホライドという進行止めを塗られて真っ黒になっていました。「ラニングシャツに丸坊主の小学生がニヤッと笑ったら前歯真っ黒」という、例のやつです。ご存知?

また、昔の日本には「お歯黒」という習慣がありました。タンニンを塗布して歯を黒くするというファッションなのですが、歯のガングロだと思って下さい。時代と人によってはこれが美しかったのです。このお歯黒も虫歯の進行を止める効果があります。

緑はアマルガム。何十年も前に詰めたものです。殺菌性のある銀が含まれているのですが、今では世の中から消え去りました。
黄色は慢性う蝕。フロスをする習慣が無かったけど、甘いものを口にする頻度や色々な食生活習慣がさほど悪くなかったのでしょう。ですから何十年もかかってこの程度の進行で済んでいます。
赤の所は欠けてきたから、そろそろ修理しますかね。でも慢性う蝕だからほとんど進行しないけどね。
緑も黄色も赤もぜーんぶ一直線に削って、歯型とって、銀歯はめたら話は早いよ。そうする?

黒い慢性う蝕を(茶色い普通のう蝕のように)削って詰めるべきかどうかは、かかりつけの歯科医院が「時間軸で経過を見る」中で判断すべきです。ですから、定期的に予防歯科に通院する中で慎重に判断する必要があるのです。

ややこしく考えずにドンドン削って詰めておいたら(頭を使う必要が無いので)簡単なのですが、歯を長ーく使って頂くためには、よーく考えて、慎重に、慎重に。これが英保歯科スタイルです。

歯肉からの出血が続く。ガン?

「口の中のどこからか、出血が続いて止まらない。舌ガンとかじゃないかと心配で心配で、居ても立っても居られなくなって電話させて頂いたんです。」と、今日お見えになったお客様。

「確かに妙に出血しやすい『できもの』は、そのような心配が必要な事もありますが、○○様はタバコやお酒と無縁ですので、そんなに心配ないでしょう。」と、私。

食道がんと飲酒・喫煙との密接な関係をご存知ですか?

確かに一番奥の歯から出血しているなァ。原因は一体何だろう。レントゲンを撮ってみよう。
血が出ているように見えるのは黄印の歯。でも出血の原因はその後ろの歯肉に隠れている親知らず(赤印)の炎症のせいでした。

出血の原因が親知らずである事を説明し、ひとまずは安心して頂けました。後はこの親知らずを抜くかどうかの相談になります。どうするか?結論を急がず、良く相談して決めましょうと言う事になりました。

こんな事もあるんですよ、というお話でした。

くさび状欠損は磨き過ぎのせい?

「奥歯がしみる。知覚過敏?えぐれたようになっているから虫歯かな?奥の歯は黒い所もあるからきっと虫歯だ。削って詰めてもらおう。」

青い部分は歯ブラシでゴシゴシやり過ぎてえぐれちゃった。緑の部分は虫歯。だから両方削って詰めるのがベスト!←・・・。ホントかな?

「そうですね。歯ブラシで力任せにゴシゴシやるからこんな風になるんですよ。もっと優しく磨いて下さい。後ろの歯の黒い所は虫歯になっているし、麻酔をして、両方削って詰めるようにしましょう。」

「有難う御座います。これで安心だ。」

歯医者でよくある会話を想像するとこんな感じでしょうか?

青い所は噛む力によって構造の弱い所がパラパラと壊れてきていると考えられています。緑の所は慢性う蝕といって、ほとんど進行しない、まあ、虫歯と言えば虫歯ではあります。

予防歯科を核に据え、歯をかけがえの無いものだと考えている英保歯科ではこんな感じで会話が進みます。

「歯の頭の部分はエナメル質という硬い構造で出来ていて、根っこの部分は骨に植わさってしっかりホールドされているので、噛む力によって折曲げられた構造の弱い場所が壊れてくるんです。氷をバリバリ噛んだりしてませんか?やっぱりそうですか。とにかく歯をいたわって使わないと90年も持ちませんよ。こっちの黒い方は慢性う蝕なので、削る方がかえって歯の寿命を短くする可能性が高いかもしれません。」
「選択肢として、①歯をいたわって使って、予防に通院して頂きながらこのまま様子を見る。②しみる症状が強ければ、知覚過敏の処置をするか、レジンでコーティグする。③良くやられているように麻酔をして削って埋める。の3つがあります。」

「先生のお勧めは?」

「①です。一旦手を着けたら2度と元には戻せませんから、慎重に行く事をお勧めします。」

「私もそれが良いです。来月また予防を受けてもいいですか?」

「どうぞどうぞ。感心ですね。それまでに何かあったら、遠慮なくドクターのアポイントをして下さい。」

「有難う御座います。」

皆さんのお好みはどちらでしょうか?